以下の判例をもとに説明します。
【最判平成17年3月29日刑集59巻2号54頁】
被告人は、連日連夜にわたってラジオの音声や目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして、 Aに対して精神的なストレスを与えて、全治不詳の慢性頭痛症、睡眠障害、耳鳴り症の傷害を負わせました。このような無形的な方法による行為が傷害罪にあたるかどうかが問題となりました。
連日朝から深夜ないし翌未明まで、上記ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして、同人に精神的ストレスを与え、よって、同人に全治不詳の慢性頭痛症、睡眠障害、耳鳴り症の傷害を負わせた被告人の行為は傷害罪の実行行為に当たる。
傷害罪の規定を見ていただくと、「人の身体を傷害した」としか書かれておらず、その手段や方法の限定がなされていません。したがって、典型例の物理的有形力の行使(殴る蹴る等の暴行)に限られず、無形的方法による傷害罪が多く認められてきました。本件も暴行以外の方法であるアラーム音を大音量で鳴らすといった方法で傷害結果を引き起こしたものとして傷害罪とされています。当然ですが、暴行によらない傷害罪であっても傷害の故意は必要です。